物語論をゲームに適用するために その2 語りについて

前回に引き続き。
前回の視点に立った上で、改めて、語り、聴きの機能を考える。
特に、聴く行為を掘り下げることで、インタラクティブなメディアとは何か、という問題に近づくことができる、はずである。


…というところだが、今回はとりあえず語りまで。


語りの機能

ここでは、命令、報告、問いかけ等の、行為的な側面は置いておく。
参照・観測された現象(=物語内容)から、物語言説という異なる現象を生成せしめる機能について着目する。


これを簡単に2つの側面に分けるのであれば、以下になると思われる。
・代替
・編集

代替

認識行為による、イメージ・指標の連鎖的な交換。見なし、と言える。
例えば、木を「木」という音や文字によって代理させる、ということである。(記号論の初歩の話かもしれないが、あんまり記号論はちゃんと触れてない。世間一般の記号論の話はとりあえず忘れて進める)
範囲としては、ジュネットの言う叙法に重なると思われる。
再現、描写、とも言える。


ある事象をある事象で代替させる、その効能は何か。
・対象を時間・空間的文脈から切り離せること
・存在しないものであっても現前させられること
・本来関連し合えない対象同士を関連させられること
端的には、現前させられること、と言えるかもしれない。目の前に持ち運んでこられること、自在に出現・消滅させられること。
ある事象は観測によって「認識されたもの」となり、「認識されたもの」は語りによって異なる事象として現前させられる。あるいは、誰かの頭の中で練り上げられた「認識されたもの」が、物理的な事象として現前させられる。


代替は連鎖的に行われうる。「元の」事象から、ある観測者に現前する事象になるまでの代替の回数を、代替の深度と呼ぶことにする。代替の深度は、即ち、聴き手にとっては、「元の」事象を連想的に得るための行為の動きの大きさ、に対応することになる。
また、代替は多重性も持ちうる。つまり、「木」という語が、物理的に存在する木を指すと同時に、ある人物を指す、ということも可能である。定型で短い韻文では特にこの声質が用いられる。
よって、代替は多重・多層に働く。つまり、代替は構造を持ちうると言える。特にこれは、ネットワーク構造と言えよう。


多重・多層の代替の結果としての事象=物語言説は、その構造が聞き手によって紐解かれ、展開された時に、言わば爆発的なイメージの展開、動き、として認識されるだろう。無から有が生ずるかのように。


編集

ジュネットの言う時間(順序、速度、頻度)と重なる。
代替された事象が、「本来は」あり得ない時間的・空間的な順序・スケール・構造で配置されること。これは、軽い、持ち運べる事象へと代替されることで初めて可能になる。
ただし、代替された事象そのものは、一つの連続体として認識される。つまり、現前する一つの連続体が、時間的・空間的に点在する複数の連続体群と対応する、ということになる。


語りによって現前させられた連続体は、編集された連続体群を含む連続体である。これは、構造を持った連続体、と言える。連続体の構造は、これもまた紐解かれることで連続体群の元の姿へと展開されうる。では、聴き手に展開されることで何が起こるか。
構造を持った連続体といえど、連続体は連続体である。聴き手からすれば情報は連続的に得られる。つまり情報は追加されるのみである。そこに編集・構造の概念を持ち込むことで何が起こるか。例えば、事件の後でその原因を語るような後説法を取った場合は、先に語られた事件についての聴き手の認識を後から得られた原因についての語りによって更新することになる。つまり、時間的・空間的制約から自由に、聴き手に認識された像の任意の箇所を任意のタイミングで更新できるようにすることが、編集の機能と言える。
人間の「自然な」認識法則からすれば、事象は連続的に変化するはずである。ボールは放物線状に飛び、ボールがぶつかることでガラスは割れる、というような因果の連続が「自然」である。だが、ある個人の認識の上では、ガラスが割れたことを知った後で、ボールが飛んできたことを知る、ということは起こりうる。語りによる編集は、これを大々的に行い、聴き手の認識を何度も覆し塗り替えることを可能にする。端的な例は、ショートショートや落語の、オチであろう。語りの終端に至るまでに聴き手に得られた認識の像を、最後の言葉によって一瞬で全面的に描きかえさせるのが醍醐味である。この、「一瞬」「全面的に」という、時間あたりの変化量の大きさは着目に値する。編集によって得られるのは認識上の像が描かれる加速度の制御であり、その最も効果的な使い方は、弓を引き絞るように溜めてからの爆発的開放、ということになるだろう。


まとめ

語られた事象=連続体=物語言説は、まず第一に、そこに存在し得ないものを現前させられることに価値がある(代替の主機能と言える)。
そして、その現前のさせ方は、代替における構造と編集における構造によって制御される。制御の仕方により、変化の大きな、刺激の強い、現前のさせ方が可能となる。

聴きについて。