戦国コレクション13話 善住坊回 武将の「名」

順番が前後するが、杉谷善住坊の回について。
1クール目のラストで、実質信長回とも言えるわけで、ちょっと気になったところをまとめてみる。


この回でなんといっても特徴的・謎なのは、現代の女子高生アゲハの存在である。
結論を先に言ってしまえば、アゲハは信長の現代における分身と言えるのではないか。


信長・アゲハの二重性を、信長、善住坊のそれぞれの視点から見る。


信長にとっての二重性

本話での信長は、1話での登場から時間が経っており、現代世界での生活にも慣れてきたものとして描かれる(いきなり十数万の現金を引き出すとは…)。
戦国世界に帰るという当初の目的は忘れていないはず……視聴者的にはそう思いたいが、これまでの話の流れでは、現代世界に残る選択をする武将の方が多いわけで一抹の不安が残る、そんなところである。
そこにアゲハが現れる。


スライディングによるエキセントリックな登場をしたアゲハ。
交通事故的な登場の後、ハンバーガーショップで対話、という流れは1話の信長のケースと全く同じとなっている。だが、今回はアゲハが1話での信長の位置にある。


もはや隠すこともなく、アゲハは「現代における信長」であるかのように、天下取りの夢を語る。
1話で太田青年が得たのと同じ困惑を今度は信長自身が得ることになる。果てには、「このうつけ者が」という決めゼリフを信長の方が使うことに。


1話の太田青年は、「織田信長」という名を歴史上のソレと重ね、目前の信長との差に困惑させられていた。
だが、アゲハには「織田信長」という名の特殊性が通じない。「織田信長」「小悪魔王」だから天下を取る、というロジックは彼女には通用しない。


アゲハの夢もまた、天下を取ることである。アゲハに対しては、信長は一人の人間として対峙しなければならない。
だが、一つの世界に天下取りを狙う二人の人間は共存できない。だから、ハンバーガーショップで信長はアゲハに自分の夢を語ることができなかった。
信長が天下取りの夢を語る時には、二人は天下を巡って敵対するか、或いは、それぞれ別の世界で天下を取るために離別しなければならない。
結局、最後には二人は別れることになる。引き延ばされた離別までの猶予、それが本話の小旅行である。



善住坊にとっての二重性

善住坊の視点で見ると、本話は、信長暗殺の試み → 暗殺の断念、という話である。
なぜ暗殺を断念したのか。
最終的には、善住坊はアゲハの友達となることを選ぶ。
本話における信長とアゲハの二重性からすれば、信長を殺せない理由は、アゲハを殺せない理由と明確に同義なのだ。アゲハの友達になることを選ぶ以上、信長の暗殺継続はあり得ない。


つまりは、本話は、善住坊が信長と違う形で出会っていたら、というIFの物語。
そして最初から信長=アゲハに心惹かれていた善住坊にしてみれば、暗殺を諦めるまでの過程は、「暗殺者」という戦国世界から背負ってきた「名」を手放すまでの葛藤である、と言える。


武将の「名」

「自分には「名」しか残っていない」「今さら生き方を変えられない」というのはキャラクターの一つの類型である。
大規模な世界転移をスタートに持つ本シリーズでは、武将という「名」の在り方が一つの主題となる。
信長は、誰よりも自分の「名」にこだわる。そして、そのこだわり故に、他の武将の「秘宝」を奪う。
本話を見れば明らかだが、「秘宝」を奪うことは、武将をその「名」から解放することに等しい。
家康のように、「名」を一度失ってもなお自分の生き方を変えず、新たな「名」を獲得する者がいる。一方で、謙信のように、「名」からの解放を契機に新しい生き方を見つける者がいる。本話の善住坊は後者のパターンと言えよう。


信長の立場は特殊である。
本話におけるアゲハの存在は、信長に再度、天下取りの夢、戦国世界への帰還を再認識させたはずである。
端的に言えば、現代世界にはアゲハがいるから、信長の居場所はないのだ。
モブ長などと呼ばれつつも戦国世界を一人で背負うかの如き姿。
帰着点はどこか。
実に気になる。