戦国コレクション19話 明智光秀回 誤った推理という希望

待ちに待ったというか、どう考えても転換点にならざるを得ない光秀回の前半。探偵ものという奇策で来たわけだが、探偵=真相を暴くもの、とすればこれほど「適切な」組み合わせもあるまい。
茶番劇、それも非常によくできた、と言わざるをえない。

アバン〜探偵登場

前話の予告で既に、光秀が探偵として出ること、「犬神家の一族」のパロディであるらしいことはとっくに分かっていたわけだが、その期待を裏切る形で、冒頭には現代の工場が映し出される。
工場の描写は奥行きを強調して為される。光源を中央に置いて、前景にパイプ、背景に眩しい工場の姿。普段の、キャラクターと背景という構造を拒否して、現代そのものの象徴をデフォルメ無しで描く様には、予告からは想像できないソリッドな印象を与えられる。


キャラクターの登場はその後。水を挟んで、前景に蘭丸と光秀、背景に工場というシーン。
強調されるのは炎。まさしく、第一話のアバンの直接のつづき。
そして、光秀の記憶障害が述べられ、フェードアウト。


Aパート、最初に映るのは水面である。白く、奥が見通せない、一見すると霧のようにも見える、不明瞭。
右手から現れる光秀たちの車。左の、下手への落下。
舞台のように横に広がる空間。川に映る景色。現実と川に映る姿の二重性。
灰色で絵画的、何か表面処理がされて写実的でない背景。
気だるげな明智探偵は、「ささいな気まぐれ」で「忌まわしい事件」に関わった、という。


事件は川原で起こる。川という境界の隣で。
色のないモブの警官。棒読みのセリフ。
夢的な舞台。


事件

被害者はホトトギスアヤコ(殺子)。メイコ(鳴子)、マチコ(待子)、の三姉妹と言う。
というわけで、明らかに被害者は信長である。
明智光秀が絡んだ殺人事件、と言えば史実からも信長が連想されそうなもので。製作者の側では、被害者を隠す気は全くない。そして、犯人が明智光秀であることも自明なのだ。
ならば、なぜそれが、事件=解かれるべき謎、として提示されているのか、そして、なぜそれを光秀自身が解かねばならないのか、それこそが問題である。


光秀は遺体と対面し、それを「首なし死体」と認識する。これは後でオチに出てくる。
モリ・ランティの登場、木林少年の不在。モリ・ランティは川の向こう側からこちらを見つめる。モリ・ランティという名は後で明かされるため、この時点では、覆面≒無貌のものでしかない。
境界の向こうから見つめる無貌の瞳。モリ・ランティを捉えるには川を越えなければならない。


この後は、屋敷での関係者への聞き込みとなる。
だが、メイコ、マチコ、ハザマ、ムラクモの身辺を洗うも、捜査は進展しない。

境界越え

捜査につまった明智は、首なし死体とモリ・ランティの覆面の関連性から入れ替わりの可能性に思い至る(トイレの鏡に自分の顔を映して)。境界の向こうからこちらを見つめるモノ、こちらの不安感をかきたてるモノに対して接近することは真実への唯一の道と言える。


オチを知っている状態で見れば、「入れ替わり」という明智の推理は明らかな誤読である。
だが、明智の推理が当たっていたとすればどうか?
殺されたのはホトトギスアヤコ=信長ではない、ということになる。
明智のやっていることは何か。
・ そこにある信長の死体の顔から目を背けた。
・ 境界の向こうに、無貌のモノ、入れ替わって生きていた信長を空想した。
・ 探偵として、「入れ替わり」という真相を選び取ろうとした。


川=境界を越え、逃げるモリ・ランティを追う明智
追う相手は信長ではなかったか。モリ・ランティの正体は信長で、死んでいたのは別の「誰か」だ、そういう真相への期待が明智にはあった。これはひとつの希望だ。モリ・ランティの仮面を外せば、その下には信長の顔がある、と。生きている信長に再会できる、と。
しかし、全ては茶番であり、結末は既に示されている。モリ・ランティは名前の通り森蘭丸である。


真相は、木林少年=モリ・ランティによって明かされる。

ちがう。モリ・ランティ教授の正体が木林少年なのではない。
木林少年の正体がモリ・ランティ教授なのだ。

モリ・ランティは、「村外れに住んでいる変人で、実践犯罪学の教授だって自称して」いる人物である。
彼が、明智探偵の助手ではなく、実践犯罪学教授として、明智から独立して真相を暴く。
明智は、探偵=物語上の真相を示す者、という特権を剥奪される。
明智探偵が暴くべき真相=光秀の望んだ真相、は真実ではない、と明かされる。


舞台

真実が明らかになった今、明智が対面するのは、死せる信長である。
ここで舞台が現れる。
観客の拍手が起こる。
役者は花束を受け取って去る。他の役者の仕事は終わった。
スポットライトは光秀だけを照らす。
うなだれている光秀はもはや明智探偵ではない、アバンにいたあの光秀である。
黒子=蘭丸に促され最後のセリフ。
最後のセリフは拍手でかき消され、視聴者には届かない。
それでいい。最後のセリフを届ける相手は最初から一人しかいなかったのだから。


現代世界で目覚める光秀。
光秀は劇の最後のセリフを繰り返す。
口にすればわずか数秒のこのセリフは、長い長い探偵劇と同じだけの重さを持つ。
その重さを語るには、あの舞台が、探偵劇という構造が必要であった。
そしてその果てに振り絞られた涙が。


まとめ


見ながら書いてたら、…ということになった。
茶番劇ではあるが、探偵・明智光秀と、実践犯罪学教授・モリ・ランティの真相をめぐる対決、と見ると、光秀の見たがった真相が見えていいのかも。もちろん最終的にはモリ・ランティも光秀の内面に生まれたキャラクターということになるわけだが。


一つ気になったのは、探偵ものにはつきものの動機が総スルーだった点。
動機については来週やるんだろうか。


公式ページの、光秀のキャラ紹介にある、

信長の片腕的存在。
文武に秀でているが、戦国世界において一廉の人物の証とされている秘宝を持っていないことに強いコンプレックスをいだいている。

ってところが、すごく劇的な設定である。
秘宝を持っていない光秀と、秘宝を集める信長。
なぜ、光秀が秘宝を持っていないのか? 理由はいろいろ考えられるが、いくつかのパターンは考えられるように思える。二者の関係、という点では、謙信・兼続と対比できるか。


まとめ:今川義元ちゃんが存外かわいい。