戦国コレクション20話 明智光秀回 戦国世界への帰還に向けて

光秀回の後半、19話ラストで目覚めてからの続き。今度は現代世界での光秀を描く話である(ISはInnerSide、OSはOuterSide、くらいの対応と思われる)。
本話は、光秀の物語の一部であると同時に、1話アバンのあのシーン、つまりは、戦国武将たちの現代世界への集団転移事件へと至る過程を描く物語でもある。戦国コレクションという作品のメインストーリーの要所であり、一話完結ではなくなっている。これに続くのは、最終話ということになるだろう。現時点であと3話しかない……。


本話において考えさせられるのは「秘宝とは何か」ということと「信長・光秀の関係はどうすれば解決に至れるのか」の2点である。これらの問を統合して一つにまとめるのなら「戦国コレクションはどうやって終わるのか」ということになるだろう。

秘宝とは何か

これまで作中では明確に語られてこなかった秘宝という設定だが、本話では踏み込んだところまで説明がなされる。
秘宝を持つ者と持たない者がいる、ということ。秘宝は「強い力の結晶」で、「野心」だったり「道を究めんとする心」だったり「業」である、ということ。


そして、本話中では、最初は秘宝を持っていなかった光秀、秀吉が秘宝を得る様が描かれる。しかしその描かれ方は二者で対照的である。
秀吉は、始めから秘宝の有無にこだわらずマイペースに振る舞っており、後に秘宝を得た時には、それは吉事として描かれる。
一方で、光秀は秘宝を持っていないことをコンプレックスにしていた。そして、秀吉、家康等への嫉妬の感情を溜め込んだ末に、それを秘宝へと転化させた。その「暗い」秘宝は、そのまま光秀の理性を奪い謀反へと駆り立てていった。


本話中で、利休は

強い想いは人を強くする、けど、人を苦しめもするのではないか、そんなふうに思えるときがあって

と語っている。
光秀の役どころは、今まで作中で語られることのなかった秘宝の負の側面を体現したもの、と言える。
秘宝=「名」とすれば、光秀の秘宝は「復讐の牙」というそれである。それは「泰平女君」「太閤娘」といった「名」と比べて、どうにも拭えない罪の匂いを含んでいる。


戦国コレクションというシリーズで描かれる一連の出来事の発端には、復讐の秘宝によって為された、光秀の信長殺しという事件がある。罪のない信長、罪を犯した光秀、被害者信長、加害者光秀、この関係が全ての発端にある。
ならば、なぜこの事件が戦国武将たちを現代世界に転移させるという異常な事態を招いたのか? そして、なぜ信長は秘宝を集めなければならないのか?



贖罪と執着、光秀の意志

20話では、光秀による戦国世界での出来事の回想の後、現代世界での光秀と信長の邂逅が描かれる。
このシーンの流れは以下となる。


・ 全てを思い出した光秀が倒れ利休に介抱される。そこで信長が生きていることを知らされる。
・ 信長が秘宝を奪いにやって来る。
・ 一度は光秀が秘宝を捧げようとするが、「やはり渡せない」と言って逃走する。


このシーンでの第一の疑問点は、なぜ光秀が秘宝を渡さなかったか、あるいは、なぜ信長が秘宝を奪えなかったか、である。
信長は謀反に対する怒りを滲ませつつ光秀に迫り、光秀は「それが償いになるとは思いませんが、私の秘宝が信長様のためになるとあれば、喜んで」と秘宝を渡そうとする。だが、いざ秘宝を取る段になり、それが信長との「今生の別れ」になることに思い至った光秀は秘宝を渡すことを拒否する。ここに見られるのは、信長への贖罪意識と、信長を失いたくないという信長への執着の二面である。


第一の疑問点への回答を「光秀が信長と別れたくないから」とするのはよい。それはそれで筋が通る。義輝、石舟斎の回でも同様の図式であった。
だが、第一の疑問点の前に、そもそも根本的な問題がある。
なぜ、光秀の前に実は生きていた信長が現れて贖罪を迫る、などという「都合のいい」事が起こるのか。


このシーンを成立させる「意志」があったとすれば、それは信長ではなく光秀の側にある。
罪の意識に苦しむ光秀だが、その意志の根源は信長への執着であり、信長に罰せられることもまた願望の一つのはずである。一方で、信長はただ秘宝を求めた結果として光秀の元に来ただけであり、その行動原理に光秀の存在は含まれていない。
本シリーズを通して、信長が狂言回し的な役割を担っているのは明らかである。各話でフォーカスが当たるのはその回の武将の方になる。本話においては、信長は光秀の贖罪願望に応じて現れた。だが、光秀の側で、贖罪と執着という相反する願望に折り合いをつけることができず、結果は信長からの逃亡、つまり、回答の先延ばしという形になった。


「都合のよさ」について、もう一段踏み込んで考えてみよう。
光秀の罪の意識は、今の光秀を支配する程に強力なはずである。それが、「信長が現代世界では生きていた」という形であっさりと薄められてしまうのには、視聴者の実感として、拍子抜けしてしまう感がある。
これ程に嫉妬に苦しんで、殺人を犯して、罪を背負って、なのに突然に贖罪の機会が奪われてしまうとは、とても信じられない。それはあまりに残酷過ぎる。
では、この信長は、ここに信長がいるということは夢まぼろしではあるまいか。


信長が実は異世界(現代世界)に生きていて、戦国世界に戻るために駆け回っている、という都合のいいお話。このような筋書きを望んでいるのは誰か? この現代世界のお伽話を成立させる「意志」はどこにあるか? 信長の戦国世界への帰還を望んでいる者は誰か?


19話における推理劇では、光秀の「信長の死を認めたくない」という願望がその劇全体を成立させる「意志」となっていた。その願望が誤りであると暴露され、光秀は信長の死という「真実」を受け入れて現代世界に帰還した。
だが、光秀の夢-現代世界、の対応と同じ構図が、現代世界-戦国世界、の対応にも当てはめられるとすれば、秘宝を集めて戦国世界に帰還しようとする信長もまた、それを望む「意志」によって成立させられた像なのではないか。


ならば、改めて、信長の現代世界行の物語の発端を見る必要がある。
それが同時に、信長の戦国世界への帰還のあり得る姿を示すはずである。


現代世界とは何か

光秀の謀反、及び、同時に起きた現代世界への転移の様は、20話と1話アバンによって描かれる。


光秀は、城の動力炉(?)に火をつけ、城全体が一つの巨大な火柱になる。屋外に出た光秀は自失してただ火柱を見つめる。信長は火に囲まれつつもまだ生きていて、火柱を見て誰の仕業かを覚る。そして信長の足場が崩れ、信長は頭を下に、背を地に向けて、目を閉じて落ちてゆく。一方の光秀は、火柱を見る最中に正気を取り戻す。火柱の中心から強い光が発せられ、信長、光秀は光に包まれる。


戦国世界で起こったことはここまでである。舞台はこの後現代世界に移る。
戦国世界では信長の死が確認されていない。光秀は火をつけた後に信長の姿を視認してはいない。
光に包まれる様が作中で明確に描かれたのは信長、光秀の二者だけである。他の武将はどうやって現代世界に来たのか不明。


戦国世界と現代世界の時間的関係は明確でない。
信長の現代世界への転移が、光秀謀反の時であった事は描かれている。もし信長が戦国世界に帰還できたとして、それが戦国世界の時間的にどの時点になるのかは不明である。


戦国世界での事実からすれば、戦国世界では、光秀の謀反がまだ途中の段階にある。光秀の謀反は、信長の死によって完成される。そして、戦国世界の信長は、今、死にかけてはいるがまだ死んではいない。
では、現代世界への転移、及び、その後の一連の出来事は、戦国世界での光秀の謀反の完成までの間に挟まった、モラトリアム的な事象であると位置づけられないか。
まだ確定していない信長の死=謀反の完成は、モラトリアムの結果によって成否どちらかに決定する、と。
つまり、信長の戦国世界への帰還=戦国世界における信長の生存=謀反の失敗(あるいは撤回)、である。


モラトリアム=夢と言い換えてもよい。
ネタの大筋が夢だとして、思い起こされるのは後期EDのイメージである。
EDのカットの流れを整理すると以下となる。


1 光秀と信長が花園で横たわって目を閉じている。ズームイン。
2 海辺で佇む光秀の立ち姿。画面奥の海に視線。明智家紋。巻貝の貝殻イメージ。
3 光秀口元を側面からアップ。
4 光秀背面腰上。2と同構成。海、貝殻なし。
5 各武将のイメージ(連続)
6 振り返る光秀の膝上全身。顔も映る。色調がピンク→通常に変化。
7 信長背面腰上。
8 目を細める光秀の表情アップ
9 2と同構成で、信長と光秀が並ぶ。光秀が信長の背を見る形。
10 1と同構成で、光秀だけが花園に横たわっている。ズームアウト。


EDにおいては信長の顔は一度も描かれていない。一連のシーケンスの主体は光秀で、光秀が信長の後ろ姿を見つめる、というイメージが強調されている。
特に注目したいのは最初と最後のカットだが…ここを見るに、夢を見ているのは光秀であり、信長は光秀の視線(=「意志」)によって存在させられているもの、と連想させられる。最後に光秀だけが残ることが、光秀が主体であることを強調する。海辺の貝殻は、追憶のイメージか。


EDが光秀の夢っぽいから本編もきっとそうだろう、というのは短絡的すぎるかもしれない。
だが、ここまで強烈なイメージを持ったEDが、本編とシンクロすればラストはいかほどのものになるか、という期待もある。



落下する信長、地に佇む光秀

なぜ秘宝を集めるのか、そしてどうすれば終わりになるのか。


番宣イメージカット、第1話アバン、前期OP、後期OP、反復されるのは頭を下にして落下する信長のイメージである。
落下する信長は死にゆく信長、そして飛んでいた信長を落下させたのは光秀である。


20話でのやりとり。信長が茶室を去った後の光秀と利休。

利休:やれやれ、まるで疾風のようなお人だ。誰かがしっかり捕まえておかないと、あっという間にどこかに飛んでいってしまいそうな。
光秀:信長様を、あの人を捕まえておける者など、いるのでしょうか。


落下する信長を救うならば、信長を捕まえること、だ。


或いは、信長が落下したのは、夢を叶えるのが怖くなったから、なのかもしれない。
であれば、誰かが信長を支えて共に空へと再び飛び立たなければならない。


秘宝集めは、戦国世界での信長の天下取りの現代世界における再演、という面を持つ。
モラトリアム、再演の世界である現代世界において、秘宝集めを完遂することが、戦国世界で中断したままの天下取りを再開させることにつながるはずである。ならば、現代世界では、戦国世界でできなかったことをやり切る必要がある。誰かが信長をしっかりと捕まえて、共に天下を取るということ。


犠牲として秘宝を捧げる、という関係では不足なのだ。
光秀は信長と並び立たなければならない。
そして、現代世界で望みを果たし得たならば、戦国世界でもきっと同じことができるはずである。
信長はまだ落下していて、光秀は立ち上がって駆け寄れるはずなのだから。